エッセイ ~『政治を科学することは可能か』を科学することは可能か~

こんにちは!

18期の金澤です。

今回は、安倍内閣の終焉と菅内閣の誕生を受け、私が以前ご紹介した河野先生の著書『政治を科学することは可能か』に掲載されている研究の内容を踏まえ、考察してみたいと思います。

①安倍首相の辞任発表と支持率急上昇

今回、安倍首相が辞任を発表した直後に、それまで低迷していた内閣支持率が20%近く急上昇したという報道がありました。この支持率回復の減少の要因として、辞任発表の潔さが評価されているとか、体調を労る見方が強まったからだという見解があるようです。

https://tokuho.tokyo-np.co.jp/n/n9a259f500d95

しかし、私はこれについて、別の解釈も可能なのではないかと思います。以前コラムにも書きましたが、河野先生の「なぜ安倍内閣の支持率は復活するのか」(2015)という研究では、基本的には安倍政権の安保法制の方針に賛成である人々が、安保法制に対する安倍政権の説明努力不足などの細かな問題に冷や水を浴びせるように、一時的に不支持的な態度に回っているのではないか、だからこそ時間が経てば支持率は回復するのではないか、という研究結果が発表されています。

この観点と、今回の辞任直後の支持率急上昇を結びつけることは出来ないでしょうか。つまり、基本的には安倍政権に比較的支持寄りである人々が、コロナ禍での安倍政権の対応を問題視したため不支持に回っていたものの、辞任発表を受けて急遽支持に再転換した、という見方が出来るのではないか、と考えます。これについて、地震や津波などの天災が発生した際に、その責任を政治家に転嫁する形で支持率が低下する現象は「シャークアタック現象」と呼ばれ、政治学的にその実在が確認されています(河野ゼミのOBに、その研究をされていた方がいます)。昨今のコロナ禍も天災として考えれば、辞任発表前に安倍政権の支持率が低迷していたのは「シャークアタック現象」が原因ではないか、と推察することが可能なのではないでしょうか。

もちろん、上記の見方はただの憶測に過ぎず、これを正確に立証するにはより精緻かつ軽量的な分析を行う必要があります。あくまで、世間一般的な見方とは少し違う視点を投じる目的で書いたものとお考えください。

②憲法改正と安倍政権

安倍政権は、その成立時から目標の一つに憲法改正を掲げていましたが、結局辞任までそれが達成されることはなく、そもそも国民に対して憲法改正が大々的に提起されることもありませんでした。なぜ、安倍政権は憲法改正を提起するのに最後まで二の足を踏んでいたのでしょうか。

これについても、河野先生が「何が憲法改正を躊躇させるのか」(2013)という研究で、考察をされています。この研究では憲法改正の賛否を問う複数の質問をウェブ上の回答者に投げかけ、その結果、回答者の憲法改正に対する支持態度は、その質問内容や時期の経過によって変化する不安定なものであるという結論が導き出されています。

ここで、私は新たな視点を提起したいと思います。それは「回答者はそもそも憲法改正についてよく理解していない可能性があるのではないか」というものです。日本国憲法とは何か、憲法と法律の違いは何か、というのは中学校の公民の授業で学習しますが、それを大人になっても正確に記憶している人はどの程度いるのでしょうか。政治経済学部に入学するほど政治に関心のある人であれば当然記憶しているかもしれませんが、一方で社会人でありながら憲法と法律の違いもよく理解していないような人も一定数いると考えられます。上記の研究においても、そういった人が憲法改正に関する質問を投げかけられ、何が何だかよくわからないまま回答している可能性があります。

つまり、憲法改正に対する支持態度が不安定なのは、そもそも回答者の憲法改正に対する理解が浅いのではないか、という要因も考えられるのではないでしょうか。安倍政権は、そういった憲法改正に対する国民の理解状況を鑑みてなかなか言い出せないまま、コロナ禍が始まって憲法改正どころではない事態に陥って遂に辞任した、という可能性もありうるものと思います。

これも、あくまで憶測に過ぎません。憲法改正の賛否について、基礎的な憲法理解に対する質問を組み込んだ実験をすれば、あるいは立証出来るかもしれません。

以上、ここまで憶測の駄文を書かせていただきました。

今まで私のコラムをお読みいただき、誠にありがとうございました。